【自然編】日本海が美味い魚を育む
対馬暖流と深層水。二つの層で成り立つ日本海
日本海の中央に位置する北陸の海、そこで獲れる海の幸は日本海の幸であるともいえる。ユーラシア大陸の東端にある日本海は最深部が約3700m。大陸と日本列島に囲まれた浅くて広い海は、まるで洗面器のような形状をしており、表層には黒潮から分かれた対馬暖流が流れ込む。しかし、その入口である対馬海峡は最深部でも水深120mほどと大変浅く、暖かい対馬暖流は日本海の表層を覆うようにして北上する。
一方で、日本海の水深300mより深い海域には「日本海固有水」と呼ばれる水の塊が横たわっている。日本海固有水は「冷たく、清浄で、栄養塩に富む」という大きな特徴があり、その水温は水深300m付近で1~2℃。太平洋岸では水深1000mでも水温が5℃もあることを考えると、日本海固有水がいかに冷たいかがわかる。さらに表層に比べて大腸菌などの菌類が少ないことや、窒素・リン・カリなどの栄養塩が多いことが知られている。富山県ではこの日本海固有水を取水し、海洋深層水としての販売やアワビの養殖などに利用している。
これをイメージするなら、透明なグラスに注いだビールを思い浮かべてもらうと良い。琥珀色の液体の部分が日本海固有水で、その上の白い泡が対馬暖流の影響を受ける部分、そしてその境が水深300mといった感じである。
さらに日本海の中央部には、大和堆(やまとたい)と呼ばれる海底山脈が海中にそびえるように盛り上がっている。一番高いところでは水深が236mしかなく、この周辺は日本海きっての好漁場となっている。
このような日本海の水塊構造や地形が、そこに暮らす生物、つまり「日本海の幸」を決めているといっても過言ではない。
変化に富んだ北陸の海
日本海全体から北陸の沿岸に目を転じると、福井・石川・富山の各県の地形は全く異なっており、とても面白い対比をしている。同じ日本海に面しておりながら、真ん中の石川県には日本海に突き出した能登半島があり、その西にある福井県には、広くて浅い若狭湾が横たわる。一方、東の富山県には、能登半島に抱かれるようにして日本三深湾の一つである富山湾がある。この地理的な違いが、そこに生息する魚介類に与える影響は大きい。
例えば表層の対馬暖流域に生息するヒラメでは、能登半島を境に西と東では「群れ」(系群と呼ぶ)が異なることが知られている。また、サバは一般に秋が旬とされ「嫁に食わすな…」と、その意味が姑の苛めか愛情かで議論のあるところだが、脂の乗った大型のサバは能登半島以西では秋に多く、富山湾では冬に漁獲されることが多い。
一方、秋に姿を現すアオリイカは、富山湾では産卵していないようで、若狭湾や能登半島付近で生まれた稚イカが対馬暖流で運ばれてきているようだ。
生物によって影響は様々だが、若狭湾・能登半島・富山湾の沿岸地形を見ると、その違いが明確になる。全体的に浅い若狭湾は対馬暖流の影響を強く受ける場所が広く、湾奥部にはリアス式海岸が発達しており敦賀湾、小浜湾、舞鶴湾などの支湾が連なって複雑な海岸線を形成している。このような海域は、アジやサバといった回遊魚や、カレイやアマダイ(若狭ぐじ)など、海底付近に生息する魚類の生息に適しているとともに、魚介類の子供たちが育つためには、とても重要な場所となっている。
能登半島は岩礁地帯からなる海岸の割合が高い。対馬暖流が直接当たる外浦は波の強い場所が多く、内浦と呼ばれる富山湾側は比較的波が穏やかである。沿岸性の魚介類が豊富で、磯のサザエやアワビ、ナマコ、イワノリ、そしてマガキや岩ガキが有名である。また、クロダイやスズキ、メバル、アオリイカなどの岩礁性の生物も多く生息しており、外洋水が洗う磯場の魚介類はさわやかな味わいである。
富山湾のノロゲンゲ
富山湾は若狭湾に比べると面積は小さいが、岸近くから急激に深くなっており最大水深は約1250mもある。そのため、表層では暖かい対馬暖流の生物を産し、300m以深では冷たい日本海固有水の生物が漁獲されるという日本海の一部を切り取ったような状況で、ブリやホタルイカのような回遊魚とともに、ノロゲンゲなどの冷水性生物が岸近くで漁獲されている。
北陸の食物語 自然編メニュー
- 対馬海流と深層水
- 変化に富んだ北陸の海
- 日本海を凝縮した富山湾
- 北陸で食べる魚介類はなぜ美味い
- 北陸の自然抜きで北陸の魚は語れない