【風土編】北陸は発酵食づくりに最適
幅広い発酵文化が北陸にはある
富山県といえば「ます寿し」。サクラマスを酢でしめたもので富山市をはじめとして県内各地に製造元がある。近年はコンビニエンスストアや量販店で一口サイズのものが販売されるほど普及している。変わったものでは朝日町にある微生物発酵茶のバタバタ茶に注目したい。独特の香ばしい風味があり、茶の点て方も個性的である。
北陸三県には味噌、醤油、酢などの発酵で作る調味料の醸造元も多い。例えば金沢市大野町には醤油・味噌蔵が集まり、その規模は日本海側随一である。原材料が船運によってもたらされ、豊かな白山山系の伏流水と合体した産地である。酢の製造も北陸ではめずらしいが、金沢と鶴来に見られる。
酒類は北陸地方の発酵食品を代表するものである。日本酒では酒造好適米をふんだんに使い良く磨いて名水とともに仕込まれる。各県には吟醸、純米、古酒など高い質と特徴を持った全国ブランドの名酒が揃っている。造り手としての杜氏も数は少なくなっているが能登杜氏、越前杜氏などが活躍している。また、近年はその技術、技法を伝える蔵元側で酒造に関わり、地元の酒造技術者が日本酒を仕込む。
焼酎、ビール、ワインも大小の蔵や工場が北陸の名水やブドウ果実を活かして作られていて好評である。併せて飲料も大手の工場が稼働しており、これも豊富な質の高い水があるからである。
そういえばタカジアスターゼの発見をはじめ、発酵、酵素技術を応用しての食品、薬品の開発や工業化などに尽力した科学者高峰譲吉は高岡生まれ、金沢育ちというのも何かのゆかりであろうか。
塩辛の系統のものも多い。能登はいしる、いしり、よしるなどの名称でいわれる魚醤が有名。調味料として近年関心が高まっているが、イワシ、イカを原材料とするもので、ニョクマム(ベトナム)、ナンプラー(タイ)、しょっつる(秋田)などと、南方、北方ともによく似たものがあるので一連の流れを感じる。
富山は黒作りが独特である。イカの塩辛は赤作り、白作りと黒作りがある。黒作りはイカの墨汁も材料として使うもので独特である。新鮮なイカの獲れる北陸地方一円でイカの塩辛は作られているが、黒作りについては富山県がつとに有名である。新鮮なスルメイカと発酵技術が結びついたもので、近年はホタルイカのものもある。
食品ではないが、こういうものも発酵で作られていたかと思わせるものに五箇山の「煙硝(火薬の原料)」があり、加賀藩の弾薬庫ともいわれた五箇山から金沢へ運ばれたため弾丸道路として「煙硝(塩硝)の道」も築かれた。煙硝は黒色火薬の原料の主成分の硝酸カリウムであるが、それが合掌づくり家屋の床下で発酵技術を使って製造されていたというのは驚きである。
煙硝の歴史や製法を展示する五箇山「塩硝の館」(富山県南砺市)
北陸の食物語 風土編メニュー
- 北陸の風土が醸す恵みの食
- 魚の糠漬けが浸透している
- 麹を使った発酵食品が豊富
- 幅広い発酵文化が北陸にはある