【風土編】北陸は発酵食づくりに最適
北陸の風土が醸す恵みの食
人間が微生物の力を借りて、素材の良さを引き出しながら変化させることで美味しくなるのが発酵食品である。微生物をより良い条件で発酵させればさらに美味しいものができるわけで、人間が微生物を意図的にコントロールすることになる。
北陸は米どころである。この基礎素材からは麹や糠ができる。良質米は多彩な発酵食品と結びついており、その米を支えているのが良質で豊かな水であり、それは豊富な雪から生まれる。そこには「天恵」というものを感じざるを得ない。
中山間地の棚田で作られる美味しい米(石川県羽咋市神子原地区)
まず、雪に恵まれる「恵雪」というものがある。降り積もった雪はふとんのようなもので、冬に美味しくなるものを低温かつ一定の温度に保つ働きがある。そして適当な湿度も提供し、大気中のちりを減らす空気清浄作用もある。夏の高温は発酵を活発に促すが、冬の一定な低温は発酵に落ち着きと気品を加える。冬に作られる保存食は多いが、それらは雪国という恵まれた環境が生み出す産物といえる。
余談だが、「ワインづくり」は土地の特性を反映させるとともに、その土地ならではの「+」の要素をうまく引き出して行われる。銘醸地といわれるところでも、最初から良いものができた訳ではなく、課題を克服して、特性や良さを引き出してきた歴史がある。北陸地方の発酵食品にも同様な工夫や努力があったことは間違いない。
「恵水」もある。雪は徐々に融け出して豊かな水を供給する。決して枯れることなく、清冽な伏流水も多く湧き出す。水質の良さは食品には生命線だ。
地球上で利用できる淡水はほんの数%しかないという。なかでも人間が利用できて、しかも水質が良いものは極端に偏在している。日本は水に恵まれた地域の一つであるが、特に北陸地方には良質な水がふんだんにある。これは地球上でも恵まれた希なところなのである。
海はどうだろうか。暖流と寒流が入り交じり、「日本海固有水」と呼ばれる冷たい海洋深層水と層をなす豊饒な海は豊かな素材を提供してくれる。日本海中部は回遊魚や根付いた魚など、食べて美味しい魚の種類は実に豊富である。そしてうまみがあり、脂が乗って高価に取り引きされるこれらの豊かな魚介類は、食材としてだけではなく良質な発酵食品の素材としても使われてきた。
魚介類に限らず、海水自体もまた豊かである。発酵食品にも活用されている海洋深層水は、他の地域で取水されているものと異なり水温が低く、質が高いといわれる。そういえば日本海を流れる海流は様々なものを伝えた。発酵食品も海流によって伝えられたものが多い。遠く東南アジアと共通するものがあるのも海流がもたらしたものだ。
海つながりでもう一つ。日本海を航行していた北前船が運んできたものも忘れてはならない。素材の提供が北陸から以北でなされ、評価の厳しい消費者が京都、大阪にいたのである。
そして「恵人」である。作り手にも恵まれている。淡々と丹念にもの作りに励む北陸人気質は、派手さはないが確実に発酵食品を支えてきた。気候や気象の変化を読んで対応し、素材の変わる加減がわかる、そんな目利きができるということなのだろう。出来上がったものによって語らしめる、経験から得られた技術や技法を研鑽してきたからこその賜物だ。
また一方で次々と新しい発酵食品、商品が生まれているが、これは「温故知新」、「不易流行」であり、伝統的なものは踏襲しつつ、地についていて新しいものも作り出している。
幸い、北陸地方は食べる側にもうるさく評価ができる人がいる。まさに生産するものと消費するものが相まって発酵食品を高めてきたといえる。
遣水観音山霊水堂の名水(石川県能美市)
北陸の食物語 風土編メニュー
- 北陸の風土が醸す恵みの食
- 魚の糠漬けが浸透している
- 麹を使った発酵食品が豊富
- 幅広い発酵文化が北陸にはある