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心まで潤す清水を味わう「越前市湧水めぐり」

地球上にある水のうち、淡水はたった2.5%。しかも、その大半は氷や地下水で、人がすぐに使える水は全体のわずか0.01%にしか過ぎないといわれる。
そう考えると、安心して飲めてしかも美味しい水はその存在自体が奇跡的である。
この夏はそんな貴重な水に恵まれた福井県越前市へ、清らかな水めぐりに出かけたい。

ナビゲーター=奥村充司さん ◎福井工業高専准教授 写真と文=若井 憲 ◎自然人編集部 (取材日2009年4月)

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やわらかな湧水の冷たさをふと思い出す夏

 井戸水で冷やされたスイカ、ほどよく冷たくて美味しかったなぁ…。冷蔵庫で歯が痛くなるほど冷えたスイカを食べるたびに、あの適度な冷たさが恋しくなる。蛇口をひねればいつでもきれいな水があふれ出る今、水のありがたさを感じることは少ないが、夏は冷たく冬は温かい湧水や井戸水は、思えば魔法のようなありがたい存在である。

 久しぶりに湧水の冷たさを感じてみたくなり、環境省の「湧水保全ポータルサイト」というHPを覗いてみた。富山・石川・福井の中では圧倒的に掲載数の多いのが福井県で、なかでも街なかから山中までさまざまな湧水(井戸水も含む)が見られる越前市周辺をめざすことにした。

 水環境学などがご専門で、「ふくいのおいしい水」選定の検討委員も務められている福井工業高専環境都市工学科准教授の奥村充司さんがナビゲーターを引き受けてくださり、高専5年生の長屋智也さんと小川翔平さんも湧水の成分調査を兼ねて付き合ってくれることになった。


名水めぐりをナビゲートしてくださった
右から奥村さん、小川さん、長屋さん

信仰心篤い地区の人々が湧水を守り続ける

 越前市の中心地(武生駅周辺)は、日野川が盆地に流れ出る扇状地であり、たくさんの伏流水が湧き出している。まずはその代表といえる「お清水<しょうず>不動尊の水」へ行ってみた。町の中心部にあり、不動明王が祀られたお堂の脇の竜口から水がいつも流れる。近所の人たちがひっきりなしにその水を汲みに来ていた。その数は一日50~60人という。

 続いて向かったのが、「南越瓜割清水」である。旧北国街道から路地に入った住宅地にある。ここにも不動明王が祀られてある。お不動さんの石像の前には水が注がれた数え切れないほどの湯のみが並んでいて、ご近所の方に伺うと、「自分の湯のみを持ち寄り、お参りするたびに水を替えてお供えしている」と言う。水を愛し、水に感謝する心が息づいているのだ。

 次は「蓑脇<みのわき>の時水」へ向かう予定だったが、あいにくの雨だったので後日改めて行くことにした。


[写真右]ひっきりなしに水を汲みに来る人が訪れる「お清水不動尊の水」
[写真左]たくさんの湯のみが供えられた「南越瓜割清水」のお不動さん

住民の温かい心が越前の湧水には溢れている

 味真野<あじまの>と呼ばれるこのあたりは、武生盆地の東端の扇状地であり、ここも湧水が多い。なかでもそんな湧水が流れ出た治左川<じさがわ>の存在には驚かされた。清流でしか生きることができず、絶滅が危惧されるトミヨや梅花藻<ばいかも>が、工場や住宅が隣接するこの小川に生息していると知ると感動すら覚える。

 次に訪れた「皇子ヶ池<おうじがいけ>」の水は花筺<かきょう>公園のすぐ近く。継体天皇<けいたいてんのう>の二人の皇子の産湯に使われたという伝説が残り、綿々と受け継がれてきた歴史のある湧水。きれいに整備され、ミニ資料館のようになっているが、これらは皆、地区の人の労によるものだ。

 「水への愛着、信仰心、そしてプライドがこうやって水を守っているんです」(奥村さん)

 先のHPでなぜ福井県の湧水が多いかについて奥村さんに尋ねると、「湧水そのものの数ではなく、福井県は公表している数が多いのではないでしょうか」と言われる。「ふくいのおいしい水」の認定制度があるように、福井県は湧水を使った地域興しが盛んで、“私たちの自慢の湧水を味わって欲しい”そんな気質があるのではないだろうか。


トミヨは体長5~6センチのトゲウオ科の淡水魚。水温17度以下の清水にしか生息できず、この川が日本のトミヨ生息の南限

懐かしい手動のポンプもある「皇子ヶ池の水」


住宅と工場の狭間を流れる「治左川」の清流

 さて、今度は市街地をはさんで反対の西側の湧水へと足を伸ばす。

 越前陶芸村へ向かう途中の大虫町も湧水に恵まれた土地。最近まで集落の簡易水道として使われていた水源を導水した「石神の湧水」が大虫神社の脇の池である。この水は石灰岩の地層を潜り抜け、カルシウムなどミネラル分が豊富だそうだ。

 大虫町のすぐ北側、横根寺には「観音水」が湧き出す。泰澄大師が植えたと伝わる鳥居姿の夫婦の大杉が出迎え、あたり一帯にスピリチュアルなムードが漂い、この観音水のあらたかさが伝わってくる。


「観音水」は病気平癒や無病息災に効く
霊水として信仰が篤い

「石神の湧水」を貯めた池には悠然と鯉が泳ぐ


「石神の湧水」で調査用の水を採取する小川さん

鳥居のような形をした横根の大杉

この特集「心まで潤す清水を味わう 越前市湧水めぐり」は、『自然人』21号「夏の小旅行」より紹介しています。

遠出をして夏を満喫するのもいいですが、近場で自然人ならではのこだわりの小さな旅に出かけてみませんか?

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