ホーム > おでかけガイド >心まで潤す清水を味わう「越前市湧水めぐり」

1 2 ページ

昔は時計代わりにしたという珍しい湧水


越前和紙の里「卯立の工芸館」で伝統工芸士・玉村久さんが流し漉きを見せてくれた

和紙を作る工程にはきれいな軟水が欠かせない

 後日、「蓑脇の時水」へ向かう前に、水と関係が深そうな手漉き和紙について知りたくて、越前和紙の里の三館マネージャー・清水昌夫さんを訪ねた。

 越前和紙は、約1500年前、川上御前という女神が現れ、「清らかな谷水に恵まれているから、紙を漉けば生活は楽になるだろう」といって紙漉きを伝えたことが始まりといわれる。川上御前を祀る岡太<おかもと>神社・大滝神社の社叢林<しゃそうりん>は、低山では珍しいブナの森が今もあり、水を貯え、水源となり、水の神様の住む場所として守られている。

 手漉き和紙にとって「水が命」だと清水さんは言う。紙漉きは水質や水温の影響を受けやすいため、豊かで安定したここの軟水の存在は大きく、人間国宝の岩野市兵衛氏いわく、「この水でないと思い通りの紙が漉けない」そうだ。

 さあ、いよいよ「蓑脇の時水」へ向かう。万葉菊花園の東側、蓑脇の集落から山の中へしばらく進み、林道に車を止め、急な登りの登山道を20分ほど息を切らして登ると、ようやく湧水が見えてくる。

 この湧水はある時間ごとに突然水かさが増し、洪水のように流れ出しては、また次第に減っていくという珍しい間歇<かんけつ>冷泉。地下空洞内に地下水が溜まり、一定量に達するとサイフォンの原理で一時に湧出するのではないかといわれている。洪水のように流れ落ちる「滝の音を3回聞くとお昼」といったように山仕事の人が時計代わりにしたため、「時水」といわれるようになった。

 ぜひ、その不思議な光景を目の当たりにしたいとしばらく粘ってみたが、一向に変化する気配はない。近くの案内板には、”最低でも1時間以上観察しないと見られない(最長で6時間30分に1回)”と書かれてある。日も傾きつつあったので断念し下山することにした。

「蓑脇の時水」。風車の羽のようなものは
麓から水位の変化を観察する水位計

そばの名店誕生に大いに貢献する名水


御清水庵のおろしそば。まろやかでのど越しがとても滑らかで、それでしっかりとコシのある

「おいしいそばが打てるのはこの水のおかげ」と新保さん

 旅の締めくくりに一番最初に訪ねた「お清水不動尊の水」の向かいにあるそば屋「そば席 御清水庵<おしょうずあん>」へ向かう。この店では、お清水不動尊の水を使った手打ちそばがいただける。100%福井県産のそば粉を九、つなぎ粉を一入れる九一そばで、水回しの水はもちろん、ゆでる釜の湯もそばを洗う水もそば汁の水も全部、お清水不動尊の水を使う。

 電気工事の仕事をしていたご主人の新保敬夫<しんぼゆきお>さんが、趣味で続けていたそば打ちの腕が評判となって、当時は商店街の休憩所だったここで店を始めたのが12年前の65歳の時。

 「粉と水がよければおいしいそばが打てます。もしもこの水がなかったら私はそば屋をやってなかったかもしれませんね」

 水のよさが最も分かるのがそば湯。かすかにこうばしい風味があり、「そば汁で割らずに試して欲しい」とご主人。

 あって当たり前と思いがちな水と空気。しかし地球上の環境が急激に変化して、今やそれが当たり前ではなくなりつつある。今回めぐったそれぞれの湧水も、将来は安泰とは言いがたい。これらの湧水の多くは、幾多の危機を乗り越え、守りたいという地域の強い意志によって残されているものだ。

 夏の涼を求める旅は、期せずして湧水を守る人たちの熱い心に触れる旅でもあった。水がいかに贅沢なものか、ありがたいものか、改めてそれを実感させてくれる小旅行だった。

DATA

起点のお清水不動尊の水は北陸自動車道武生ICから車で10分ほど。それぞれの湧水はここから車で数分から遠くても20分程度。

※取材は天候の都合で2日に分けましたが、通常なら1日で回れます。

※駐車場の無いところもあります。見学には地元の迷惑にならないように。蓑脇の時水は滑りにくい靴でお訪ねください。

越前市の観光に関する問い合わせは
越前市観光・匠の技案内所 TEL:0778(24)0655
  • 越前和紙の里
    和紙作り体験ができるパピルス館、伝統工芸士の技が見られる卯立の工芸館、和紙を学べる紙の文化博物館の三館からなります。入館料は共通で大人200円(パピルス館は無料)、火曜定休。TEL:0778(42)1363〔パピルス館〕
  • そば席御清水庵
    営業11時~19時、月曜休。おろしそば550円、おろしとろろそば650円など。TEL:0778(21)5088 越前市吾妻町

この特集「心まで潤す清水を味わう 越前市湧水めぐり」は、『自然人』21号「夏の小旅行」より紹介しています。

遠出をして夏を満喫するのもいいですが、近場で自然人ならではのこだわりの小さな旅に出かけてみませんか?

おすすめ商品

ページの先頭へ

自然人Facebook