霊峰白山に思いを馳せる
「越前禅定道」
文=山田 安泰
写真=勝山市教育委員会
山田 安泰(やまだ・やすひろ)プロフィール
勝山市役所職員で勝山市体育館ジオアリーナ勤務。勝山山岳会事務局。趣味は山歩きで、勝山市内の山を中心に活動している。
※肩書は2023年4月現在のものです
白山の登拝道は、禅定道(ぜんじょうどう)と呼ばれ、古くから多くの人々によって利用されてきました。白山禅定道は、福井、石川、岐阜からの3ルートあり、それぞれ越前禅定道、加賀禅定道、美濃禅定道と呼ばれています。
白山信仰の拠点神社からスタート
国史跡白山平泉寺旧境内は、越前禅定道の起点となる場所です。白山を開山した泰澄大師は、ここ平泉寺で神のお告げをうけたとされています。古代から中世にかけて平泉寺は、白山信仰の拠点として栄えましたが、天正2年(1574)に一向一揆の焼き討ちに遭いすべてが焼失してしまいました。したがって、それ以前の建物は残っていませんが、苔むした大きな礎石が並んでいる様などから当時の建物の大きさや繁栄ぶりを偲ぶことができます。すぐ近くの南谷では発掘調査がすすめられ、その調査結果や出土した遺物は、2012年にオープンした国史跡白山平泉寺のガイダンス施設「白山平泉寺歴史探遊館まほろば」で公開されています。禅定道を歩く楽しみが倍増するので、おすすめです。
3本ある禅定道のうち、一番短いのが越前禅定道です。しかし、ところどころ林道などで分断され、道が不明瞭な部分も多く、ルート全部を踏破することは困難になりました。今回は、平泉寺から伏拝(ふしおがみ)までをたどることとします。
見晴らしのよい法恩寺山山頂へ
平泉寺の無料市営駐車場に車を停めて歩き始め、杉林に囲まれた平泉寺白山神社の境内を本社まで上っていきます。ここで登山の無事を祈願し、右手の三之宮へとさらに登ります。三之宮は、安産の神様として地元の人にも親しまれている場所で、ここまでは、一般の参拝者も多くいます。本格的な登山道は、この三之宮の裏から始まります。いきなりの急登のため、呼吸が一気に激しくなります。しばらく登ると剣之宮(つるぎのみや)に着きます。この剣之宮は、平泉寺を守るための砦だったのでしょうか。その後ろ、少し登ったところに大きく堀が作られています。その堀を越えてさらに登っていくと、高さ4~5mほどの岩が左右に飛び出している場所に出ます。昔からこの場所に立っていたであろうこの岩の間を通り過ぎ、しばらく登るとようやく急登が落ち着き、左からの登山道と合流します。この登山道は、平泉寺の北谷から登ってくる道です。北谷コースは、水の多い季節は道が不明瞭なので、利用する場合は注意が必要です。
さらに尾根道を進むと、三頭山(みつがしらやま)分岐となります。左へ進むと三頭山の山頂を経由して大師山(たいしさん)へと続いています。三頭山の山頂は、木々に囲まれて展望が全くありません。伏拝へは、この分岐を直進します。三頭山分岐からは、しばらく平坦な道が続きます。以前は夏に、平泉寺から伏拝までを走り抜ける禅定道マラソン大会が行われており、急登が続くコースの中でこの場所が唯一快適に走ることができるポイントでした。
右手側には、大野市の山々までを望むことができます。ほどなく進むと幹線林道が出てきます。アスファルトで舗装された林道ですが、登山道が横切るところは石畳となっていて、禅定道の雰囲気を害さないように配慮されています。この林道から200mほど進むと稚児堂に着きます。稚児堂は、平泉寺の稚児の悲哀の物語が伝わるところで、現在も中世の石塔や石仏が小さな祠の中にまつられています。右手には稚児堂から弁ヶ滝へ下る道が延びています。壮大な滝なので、ひと目眺めたいところですが、後ろ髪を引かれながらそのまま直進すると、中ノ平避難小屋が現れます。屋根が三角の形をした大きな避難小屋です。幹線林道を利用して、車で来ることもできるこの避難小屋は、登山者にとってたいへん重宝されています。水場もあるため、ここでしっかりと休憩するのをおすすめします。
中ノ平避難小屋からは、急な階段地獄が続きます。まっすぐに登る急な階段は、精神的にも堪えます。階段を登り切ったら、振り返って登ってきた道を確認すると良いでしょう。勝山の市街地まで見渡すことができます。ここから先は、「スキージャム勝山」のゲレンデを横目に登山道を登ることになります。雨のときは、登山道に川のように水が流れるので、大きく土が削られてたいへん歩きにくくなります。我慢して歩くと、急に目の前が開けて法音教寺跡に出ます。ここには、白山へ登る修行者のための宿として寺が建っていたとされています。小さな社にお参りをして、ひと登りすると標高1,356mの法恩寺山山頂となります。山頂は、きれいに刈り払われ展望が良く、正面に伏拝が見え、その先に加越国境の山々と白山連峰を望むことができます。右には経ヶ岳が大きく確認できます。平泉寺の僧侶が経典を奉納した山とされています。振り返ると九頭竜川の流れとともに福井方面まで見渡すことができます。この法恩寺山は、昔は春スキーで賑わった山でしたが、今は「スキージャム勝山」のゲレンデとなっています。冬になるとスキー場のコースが白くくっきりと浮き上がっているため、遠くからも容易に判別ができる山です。
白山を遥拝する伏拝
法恩寺山を下り、小さなピークを2つほど越えて、その先のピークが伏拝です。ベンチが一つあり、5~6人ほどが休憩できるほどのスペースがあります。白山方面は、大きな木々で遮られ展望は良くありません。登山道は右に折れて、尾根づたいに経ヶ岳へと向かうコースが続いています。越前禅定道は、ここから正面の道を進むことになります。私は、コースが整備される前に白山を目指して、伏拝から和佐盛平(わさもりだいら)までを何回か通ったことがありますが、かつては藪もひどく、道がほとんど判別できない箇所もあり、体力と精神力をかなり消耗するコースだったため、読図の技術と十分なスタミナがあるメンバーが数名必要でした。現在は整備されたこともあり、以前よりはるかに通りやすくなりましたが、それでも途中、危険な岩場などの難所があるため上級者向きとなっており、安易に踏み込まない方が良いでしょう。
このピークに付けられた伏拝という名から想像すると、白山まで登ることができない人たちが、この場所から遠くにみえる白山を伏して拝んだのではないでしょうか。そう考えると、この場所は、たいへん神聖な場所です。昔も多くの人が、ここで引き返したのでしょう。
帰りは、経ヶ岳を経由して六呂師(ろくろし)方面へ下山するか、法恩寺山へ登り返して平泉寺へと来た道を帰ることになります。法恩寺山で白山の眺望を十分満喫すると良いでしょう。
越前禅定道メモ
【コースガイド】
現在通行可能な区間は、平泉寺から白山の伏拝までを結ぶ約7km(所要時間約3時間・本記事で紹介した区間)と市ノ瀬から御前峰(白山山頂)までの約10km(所要時間約10時間)。通行不可区画は大変危険なため立ち入り禁止。平泉寺白山神社から伏拝までのルートは5月中旬から6月中旬と10月から11月が適期。
【アプローチガイド】
えちぜん鉄道勝山駅から市内観光バス「ダイナゴン」、勝山市コミュニティバス平泉寺線で約16分の平泉寺バス停下車。
※「ダイナゴン」は冬期間休業、平泉寺線は予約が必要な時間帯がありますのでご注意ください。