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地域の宝をガイドが案内する・エコウォーク
「蚕を訪ねる 八尾・里山めぐり」

友咲さんを先頭に八尾の町を見下ろせる標高202mの城ヶ山へ。春はお花見の名所でもある

文=森田 由樹子
写真=森田 由樹子・友咲 貴代美

森田 由樹子(もりた・ゆきこ)プロフィール

株式会社エコロの森代表。北海道生まれ。東京で新聞社に勤務したのち、富山に移住。富山の魅力を伝えるエコツアー会社を運営。

※蚕のツアーについては、2023年4月現在、エコウォークはほとんど実施しておらず、希望があれば実施するという形式です。詳しくはエコロの森(連絡先はページ下部)までお問い合わせください。

「おわら風の盆」が開催される町として知られる、富山県富山市八尾町。ここは、かつて養蚕で栄えた町であり、町の至るところにその名残があります。今では養蚕に携わる人もいないのですが、新たに「天蚕(てんさん)」という緑色のマユを作る野生のカイコを育てている人が現れました。八尾町を舞台にしたエコウォークのガイドを務めている「富山県がうん天蚕の会」の友咲貴代美会長です。

かつて「蚕都」と呼ばれた八尾の歴史をひもとく

 八尾は、「おわら風の盆」の時には多くのひとが訪れますが、ふだんは静かな町です。また「町」は、八尾のほんの一部で、広大な中山間地、里山がほとんどを占めます。かつて農家で蚕を育て、町には蚕具店や製糸工場がありました。「カイコで栄えたまち」という歴史・文化を、訪れた人に伝えるにはガイドウォークがふさわしいと考えていました。そんなときに知ったのが「エコウォーク」だったのです。

 エコウォークとは、その地域ならではの「宝」である自然、歴史、生活、文化を、ガイドが案内するガイドウォーク、つまり歩くエコツアーです。

 そこで、友咲さんがガイドとなり、約5キロの距離を5~6時間かけて歩くコースを設定して、日本エコウォーク環境貢献機構の認定コースに登録しました。2011年のことです。八尾でのグリーンツーリズム事業の一つのプログラムとして取り組みました。


曳山会館からガイドウォークはスタート

解説を聞きながら歩くことで宝を発掘できる

 スタート地点は、「越中八尾観光会館」(曳山展示館)。ここは、かつては富山県蚕業試験場だったところです。この周辺には、養蚕が盛んだったころの名残がいろいろあって、たとえば「げんさんの坂」と呼ばれている坂は「原蚕種製造所」があった場所なのです。

 八尾観光会館内には、「カイコと八尾」の展示室があり、まずはここで、八尾の養蚕について友咲さんが解説します。ひととおりの予備知識を得てから、八尾の「旧町」と呼ばれる市街地を歩きます。町のはずれには、「蚕養宮(さんようぐう)」という神社があります。ここは全国でも数少ない、カイコをまつった神社です。入口の手洗い鉢はマユとカイコの形をしています。

 蚕養宮をあとにして、次は城ヶ山という八尾を一望できる山へ。ここは、八尾の人たちの憩いの公園になっています。公園からやがて、地元の人たちが保全している森に入り、コースは次第に町から里山に移っていきます。

 昼食は、地元の社会福祉施設「愛和報恩会」が無農薬で育てている野菜などを使った地元食材のエコウォーク弁当をいただきます。特製和菓子も用意しています。

蚕養宮の手洗い鉢

地元食材を使った「エコウォーク弁当」

 午後からは、友咲さんが天蚕を育てているフィールド「がうん天蚕の森」へ向かい、ここがエコウォークのゴールとなります。現在、行われている唯一の「養蚕」である天蚕飼育は、八尾の蚕業試験場で長く働いていた故・井野下堅佑氏が始めたものです。一人で20年以上にわたり天蚕の研究をし続けていた井野下氏が2008年に亡くなり、残されたクヌギ林を引き継いでいるのが友咲さんです。天蚕は、農家で飼っているカイコと違い、野生種であるため、屋外で育てています。自然相手だけになかなか思うようにならないこともあって苦労の連続だといいます。そんな話をガイドから直接聞くことで、参加した方は活動に共感してくださります。

 エコウォークでは、参加料の一部が地域の環境保全団体や文化保全団体に寄付されます。このツアーでは、「がうん天蚕の会」の活動へ寄付を行っています。

耕作放棄地に約800本のクヌギを植えて天蚕を育てているがうん天蚕の森

(1)美しい緑色をした天蚕〈ヤママユ〉、(2)美しい光沢のある緑色をした天蚕糸。「繊維のダイヤモンド」ともいわれます、(3)マユの色も美しい

 また、今後は八尾以外にも、朝日町のヒスイ海岸でのヒスイウォークなど、地域の魅力を伝えるコースを富山県内のあちこちに作って、エコウォークを広げていきたいと思います。

 そのためには、地域の人たちが自分たちの持っている宝の魅力に気づき、ガイドするようになることが必要です。地域発信のエコツアーとして、こうしたコースづくりに地域の人たちと一緒に取り組んでいきたいと考えています。

蚕を訪ねる 八尾・里山めぐりメモ

【コースガイド】
富山市八尾町の越中八尾観光会館(曳山展示館)からがうん天蚕の森まで、約5.2km、徒歩所要時間は約3時間。ゴールである天蚕の森では、季節ごとに幼虫、マユ、蛾と様々な状態を見ることができ、天蚕のマユからの糸作りや織物などのワークショップも計画中。

【アプローチガイド】
曳山会館はJR高山本線越中八尾駅から富山市コミュニティバス(八尾地域)で約8分の曳山展示館前下車。

【関連情報】
富山県がうん天蚕の会事務局(株式会社エコロの森) 076-444-0576
http://www.ecolonomori.com

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