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滑空する哺乳類に会いたい

ムササビが多数生息している呉羽丘陵にある富山市ファミリーパークでは、園内で野生のムササビを目撃することもあります(写真提供/富山市ファミリーパーク)

文=水野 昭憲 (石川県立自然史資料館前館長) 写真=金沢大学里山ほ乳類ぐるーぷ

水野 昭憲(みずの・あきのり)プロフィール

1946年富山県生まれ。石川県立自然史資料館前館長。公立では全国初だった石川県白山自然保護センターを立ち上げた。JICAが派遣する国立公園の専門家としてエチオピアを何度も訪ねている。

東南アジアの熱帯雨林地帯へ行くと、コウモリの種類はたいへん多く、ムササビの種類もいろいろいるほか、マレーヒヨケザルも生息しています。
日本では空を飛ぶ哺乳類の種類は多くありませんが、北陸地方の山地から山ろくの森では、夜空を木から木へと滑空するムササビが珍しくありません。

意外と身近に棲んでいるムササビ

ムササビは、加賀地方では森林地帯から社寺林など、大木が多い深い森があればいるはずですが、なぜか能登半島には記録が多くなく、限られた場所にしかいないようです。北陸の山間部の多くの地区では、「晩の鳥」の意味からバンドリと呼ばれています。
白山ろくの中宮集落でも、夏の夜、「ギャーギャー」という鳴き声が聞こえ、初めて聞いた時にはその声の大きさに驚きました。ムササビの鳴き声は鳥のようで鳥ではない特徴があり、「グルルルルゥ」と優しい声もあれば、「ギギー」、「ヒヨ」、「ググ」などさまざまで、鳴き方によって警戒や求愛など暗い夜の樹上生活者の情報交換を行っているのでしょう。とにかく大きな声で、「鳴く声は鵺(ぬえ)にぞ似たりける」(平家物語)と、恐ろしい声として記されて、森に住む天狗の化身とも言われていました。
ムササビを観察できるところでは、金沢大学角間キャンパス内の里山でムササビが観察されていて、道から近い森に入って声を聞くことができました。

金沢大学角間キャンパスのムササビ

滑空するムササビ

出合いたい人は日中に目星をつけておく

ムササビの観察を案内してくれる場所が近所になければ、自分だけのムササビの森を探してみてはどうでしょうか。声を聞くだけでも楽しいですし、日没後の1~2時間程度が観察に適しているので無理な夜更かしも必要ありません。
ムササビが巣穴から飛び出す時間は、地表は真っ暗でもまだ空の薄明りに木々がシルエットで見える程度、そんな明るさになったころで、季節によってその時間は変わります。大木に巣穴を発見できればそれに越したことはありませんが、飛翔したムササビがしばしば飛びつく木の幹には汚れたような跡があるので、日中にそれを見つけておくのも良いでしょう。
戦時中には防寒帽の材料として多くのムササビが捕獲され、平成6(1994)年の狩猟法改正までは狩猟獣でした。長い受難の年月を経ても、北陸の山地に普通に分布するのは、この地方の山が豊かで樹洞のある大木が多いからでしょう。
また、冬と初夏に年2回の繁殖期があり、雪国の他の中型の哺乳類にはない生態で繁殖率が良いこと、農業や人への害が少ないことから駆除されることが無かったことのおかげといえます。

ムササビがかじった小枝は斜めに切れているのが特徴[写真右]ムササビの糞。神社の石段などでこれを見つけたらムササビに出合える可能性があります(撮影/自然人編集部)

ムササビと同じリス科のモモンガは、白山山系の森で見つかることがあり、旧尾口村女原の人家の屋根裏に巣を作った記録が残ります(写真提供:井南氏)

大空を舞う哺乳類といえばコウモリ

コウモリは、北陸3県からこれまでに17種が確認されていますが、多くの種は少数の記録しかなく地方版のレッドデータブックで絶滅危惧種などにリスト入りしています。
人家の夜の街灯近くなどで、音もなくヒラヒラと飛んでいるのは、ほとんどがアブラコウモリ、別名イエコウモリです。人家の屋根裏に住みついて、フンの害に憤慨している人も時にはいますが、「街中で最も簡単に観察できる哺乳類は?」と聞かれれば、このイエコウモリといってもいいでしょう。
夕暮れに飛び出して、空中でひるがえりながら虫をとらえるコウモリを観察してみましょう。実は飛んでいるコウモリを見て種類を判定することはまず無理で、専門家はコウモリが位置を知るためなどに発している超音波を受信して、その波形から種類を判定する装置(バット・ディテクター)を使っています。
人がほとんど入らない洞窟やトンネルでは、キクガシラコウモリとコキクガシラコウモリに出合うことがありますが、そっとしておきましょう。


白山市桑島で村の明かりに来て事故で落ちたコテングコウモリ


ムササビの集合住宅がある動物園


園内の杉林にかけた巣から顔を出すムササビの子

取材=自然人編集部  写真提供=富山市ファミリーパーク

「ムササビに会いたい!」と思ってもそう簡単に会えるわけではありません。ただ、前述の通り、ムササビのすみかを見つければ、出会える確率はぐんと上がります。
そのためには、日中の明るいうちに、生息していそうな鎮守の森などをつぶさに観察して、ムササビの痕跡を探して目星をつけておかないといけませんが、簡単ではありません。
その点でおすすめなのが富山市ファミリーパークです。
「なんだ、動物園なら当たり前じゃないか」と思うなかれ。ここには飼育個体以外に、呉羽山に生息する野生のムササビ向けに、園内の林に巣をかけています。ムササビ村一丁目とムササビ村二丁目の2つのエリアにかけられた巣箱には、野生のムササビが時期によっては親子で入居していることもあります。巣箱の中にはカメラが設置してあり、モニタでライブ映像を見ることもできます。
夜行性であるムササビは、日没から30分~1時間後くらいからが活動時間となります。つまり、昼間はたいてい巣箱の中で寝ているので、ここに行けばかわいい寝顔をライブ映像で見られますが、さらに実際の姿を見てみたいと思うなら、ねらい目はホタルの鑑賞会や夏季に行われる夜間開園の時。ムササビが入居中の巣箱の下で、根気よくじっと見上げていれば、運よくムササビが滑空するシーンに出くわすかもしれません。


大きさは猫ぐらい。胴体が50cm、シッポが50cmほどで、体重は約1kg

親子で入居中の映像

ムササビ用の巣箱は地上から5m以上の高さに設置


巣箱のすぐ横に設置されたモニタ。ムササビの習性などをわかりやすく紹介するパネルも設置

富山市ファミリーパーク

電話番号 076-434-1234
営業 9時~16時30分(12月1日~翌2月末は10時~15時30分)
入園料 高校生以上500円

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