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天体観測のすすめ

夏の大三角と、そのまわりに散らばる小さな星座や星雲たち

文と写真=林 忠史(富山市科学博物館)

林 忠史(はやし・ただし)プロフィール

1971年富山県生まれ。富山市科学博物館学芸員。専門は天文全般。夏の星空では、夏の大三角やさそり座などの有名どころより、ミニ星座の「いるか座」と「や座」がお気に入り。

日が暮れて暑さがだんだん和らぐとともに、空には星たちが見え始めます。しだいに暗い星が姿を現し、日の入りから1時間半ほどもすると、空には天の川の帯が広がります。
夏はこの天の川を中心にたくさんの星座や天体たちが見られ、“星見”にはとても良い季節です。
星空をより楽しんでもらえるよう、おすすめの天体たちやその見どころを紹介していきましょう。

なじみ深い天の川

天の川は、私たちがいる「銀河系」を横から見たもので、直径は約10万光年というとてつもなく大きな天体です。その中心付近の最も明るいところが夏に見やすくなるため、天の川の季節といえば夏なのです。
天の川は七夕伝説に出てくることで有名ですが、物語の通り、天の川をはさんで「おりひめ星(ベガ)」と「ひこ星(アルタイル)」が明るく輝いています。これらと、はくちょう座の「デネブ」を合わせて「夏の大三角」と呼ぶのはよく知られている通りです。
はくちょう座はきれいな十字の形をしており、夏の大三角の中で天の川の上を悠々と羽ばたいています。このはくちょう座のくちばしの星は「アルビレオ」といい、望遠鏡で見ると青い星とオレンジ色の星が2つ並んだ、たいへん美しい二重星です。
アルビレオとひこ星の間には、矢が星座になった「や座」があります。ギリシャ神話の愛の神エロス(英語ではキューピッド)の矢とも言われていますが、ちょうどおりひめ星とひこ星の間にあるのがおもしろいです(向きはずれているのですが…)。
はくちょう座の東側には、イルカが海から跳びはねた姿に似た「いるか座」があります。共にたいへん小さくマイナーな存在ですが、その姿がかわいらしい星座たちです。


はくちょう座の二重星「アルビレオ」

さまざまな星雲の成り立ち

や座のすぐ近くには、「あれい状星雲(M27)」と呼ばれる天体があります。望遠鏡で見ると鉄アレイのような姿に見えるためこのような名前がついています。
分類は「惑星状星雲」というもので、太陽のような星が一生の終わりにガスを外に放出し、中心核からの光によって、放出されたガスがうっすらと光っているというものです。今後時間がたつと、このガスは広がりつづけて薄くなり、いつかは星雲としては見えなくなる天体です。
おりひめ星の近くにも同じく惑星状星雲である「リング星雲(M57)」があり、こちらはたばこの煙のような環状の姿が楽しめます。
ひこ星の南に、「M11」という星団(星の集まり)があります。望遠鏡では無数の星が視野いっぱい広がりたいへん美しく見えます。「散開星団」という種類で、星たちが同じ場所でたくさん生まれ、そのまま集まっているというものです。
長い時間がたつとこれらの星はバラバラの方向に飛んでいき、いつかは星団ではなくなると考えられています。太陽も誕生したときはどこかの星団に属していたと考えられていますが、今となっては周りのどの星が同じ星団だったのかは分からなくなっています。
またヘルクレス座には「M13」という星団がありますが、こちらは中心部ほど明るく、周りが暗くなる分布となっています。星たちが重力で互いに引き合っているためで、重力の性質がそのまま星の分布になっている様子が見られます。
この星団は将来もこの集まったままの状態を保ち続けます。このような星団を「球状星団」と呼んでいますが、このヘルクレス座からへびつかい座付近には、他にもたくさんの球状星団が見られます。

惑星状星雲の「あれい状星雲」。太陽のような星が一生の終わりに作る星雲です

たばこの煙のように見える「リング星雲」

望遠鏡で視野いっぱいに星が広がる「M11」

たくさんの星が重力で集まった天体「M13」

その他に出合える夏の星たち

ずっと南の空には、こちらも夏の星座の代表である「さそり座」があります。ただし、空のたいへん低いところなので、南側が開けている場所で、しかも南中のころでないと星座全体を見るのは難しいです。
ニュージーランドでは、国をつくる島をつり上げた釣り針であるという言い伝えがあるそうで、その低さのため、釣り針の曲がった部分だけが遠くの山にかかって見えることがあり、言い伝えをそのまま見ているような姿に驚くことがあります(北半球と南半球だから、実際の見え方にはかなり違いがあるはずなのですが)。
さそり座の東側にはいて座があり、そこには「干潟星雲(M8)」と「三裂星雲(M20)」という2つの星雲があります。星雲とは生まれたばかりの星がその周りのガスに強い紫外線を浴びせ、光らせているものです。写真では赤っぽく写ります。
ただしこの赤色は人間の目には見えづらいため、望遠鏡では色までは分かりにくく感じます。また、このいて座のあたりが天の川の最も濃い部分であり、銀河系の中心方向です。
この夏、天体望遠鏡で星空めぐりを楽しんでみてはいかがでしょうか。

いて座にある「三裂星雲(M20)」。生まれたばかりの星がガスを光らせています

「干潟星雲(M8)」。三裂星雲のすぐ近くにあります

土星の環を見てみよう

お盆を過ぎると、南東の低い空に少し明るめの星が見えるようになります。これが土星です。天体望遠鏡を使えば美しい環が見え、よく見るとその環の中央には黒い隙間があることが分かります。またタイタンなど土星の周りを回る衛星たちも周りに見られ、ミニ太陽系のような姿が楽しめます。


美しい環が特徴の土星

夏と言えばペルセウス座流星群

毎年8月12日頃をピークに前後一週間ほど、たくさんの流れ星が見られます。それが「ペルセウス座流星群」です。夜の23時頃から明るくなり始める午前3時半頃までが見ごろの時間帯で、多い時には一時間あたり数十個も見られます。暗い流星ほど数が多いので、街明かりや月明かりがあると見える数が大きく減ってしまいます。
2022年は残念ながら満月の日が8月12日のため明るい月がずっと空にあり条件は悪いですが、月や街明かりのない方角の空を見るといくつかは見られるでしょう。なお、2023年は月明かりがほとんどないため、絶好の条件で見られます。
ペルセウス座から湧き出すような方向に流れるという特徴があり、そのペルセウス座は、Wの形のカシオペヤ座の下のほうにあります。流れるのは空全体のどこかなので、地面に寝そべって空全体を眺めるようにして見るのが良いでしょう。
なお、駐車場など車の来るところや、クマが出そうな山奥は危険です。安全には十分注意しましょう。


ペルセウス座流星群の流星

最新の天体情報が分かる天文情報サイト

惑星の観察に適した時期・時間帯や、流星群の見やすさなどは毎年変わります。以下のサイトで最新の情報を集めましょう。

天文台に行こう!

惑星の詳しい様子や星雲・星団の観察には、大きな天体望遠鏡のある天文台へ行くのがおすすめ。
ここでは、口径の大きい天体望遠鏡を持ち、定期的に観察会を行っている2つの天文台をご紹介します。

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