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よく晴れた冬の朝、チンダル像を探しに行こう

持っていた緑の野帳の表紙に氷をのせ、表紙に映ったチンダル像の影を撮影(2014年1月15日、加賀市中央公園「おとぎの国」の池にて)。

文と写真=神田健三(中谷宇吉郎雪の科学館顧問)
写真=細島 雅代〈H〉・稲葉 誠〈I〉・安田 誠〈Y〉・鈴木大拙館〈S〉

神田 健三(かんだ けんぞう)

1948年福島県喜多方市生まれ。信州大卒。学生の時から穂高岳涸沢の雪渓を研究。名古屋で高校教師。1994年から「中谷宇吉郎雪の科学館」で学芸員、館長を務める。友の会会長を経て2020年から館の顧問。『天から送られた手紙[写真集 雪の結晶]』を編集・執筆。『雪と氷の大研究』を監修。小柴昌俊科学教育賞奨励賞を受賞。

※肩書は2022年2月現在のものです

「氷の花」、「アイスフラワー」の呼び名もある氷の中の美しくふしぎな形、「チンダル像」*。2014年1月に著者が加賀市の公園で偶然見つけてから、『自然人』でも話題になりました。北陸では珍しいチンダル像ですが、条件が整えば、あなたの身近でも美しい氷の花が見つかるかもしれません。

チンダル像とは…

氷に強い光をあてると、氷の内部がとけ、とけた範囲が雪の結晶ににた六花の形になるもののことです。イギリスの科学者チンダル(1820~1893)が、氷河や湖の氷で発見し、スケッチを残してこの名がつきました。「アイスフラワー」の別名もあります。これを実験で詳しく研究したのが中谷宇吉郎(1900~1962)です。

感動の出合いから一年、チンダル像をめぐる歩み

2014年1月15日、加賀市中央公園の「おとぎの国」の池が凍り、そこに氷の花・チンダル像が一面にできているのを偶然見つけました。
私が2014年まで勤務した中谷宇吉郎雪の科学館では、入館者に毎日のようにチンダル像の実験を紹介してきましたが、雪が降る北陸で天然のチンダル像に出合えるとは思っていませんでした。この出合いの感動から、実験だけでなく、天然のチンダル像の観察をみんなで楽しむことはできないだろうかと考えました。『自然人』2014年冬号に記事を書いたのもそんな思いからでした。
幸い少なからぬ反響があり、この一年も色々な展開がありました。まずは、この一年に開催したイベントや、白山千蛇ケ池での氷の観察など、チンダル像をめぐる歩みをご紹介します。

加賀市中央公園での観察会

観察会をやりたくても、チンダル像がいつできるかを先に知って計画を立てるのは難しく、結局、発見した日と同じ頃(1月12日)、池と、近くのセミナーハウスで観察・実験・学習の会を開くことにしました。もしその日に氷がはっていなくても、参加してノウハウを学べば、その後は自分たちで観察できるだろうと考えたからです。
実際、この日池は凍っていませんでしたが、雪の科学館が用意した氷による実験や野外での行動は楽しく、好評でした。

川の博物館(埼玉県寄居)で

2月15日、埼玉県立川の博物館で「チンダル像を探そう!」実験教室があり、講師として出かけた際、そこから近い長瀞の阿佐美冷蔵を初めて訪ねました。ここでは人工の池に谷川の水を引き、冬の寒さで天然氷を作り、保存した氷をかき氷などに利用しています。この池は日が射さず、風も弱い環境なので、大きな結晶の氷ができ、それはチンダル像の観察に適しています。阿佐美さんから氷を少しいただいて、川の博物館へ向かいました。
実験教室が始まる前、その氷を館の外に置いて日光にあて、30分程してから教室に入れました。氷には大きなチンダル像ができていて、OHPで壁に拡大投影して観察しました。まさに、太陽光でできた天然のチンダル像です。

天然氷を切り出して運搬する様子。長瀞の阿佐美冷蔵にて〈H〉

長瀞の氷に日光をあててできたチンダル像を壁に拡大投影。六枚の花びらの形が氷の中の水の範囲で、丸い形は真空の泡(水蒸気は含む)

白山、千蛇ケ池での観察

9月30日、友人と白山の千蛇ケ池雪渓へ向かいました。この雪渓の淵にできる池に秋頃は氷がはるのです。その氷にチンダル像ができないかと期待していました。
午前11時頃現地に着きました。雪渓はこの時期にしては大きく、池は小さかったものの、厚さ9㎜程の氷がはっていました。しかし、この日は曇りで日射はほとんどなく、チンダル像は見つかりませんでした。残念。
次に、持参した2枚の偏光板で氷を挟み、明るい方へかざして見ると、複雑に色づいて、沢山の結晶の集まり(多結晶)であることがわかりました。白山は前夜、風が強く、凍り始めの頃に風で乱されたのかも知れません。

千蛇ケ池の氷を大小2枚の偏光板で挟んで皆で観察〈Y〉

それは小さな結晶の集まりでした。一つの色の範囲が一つの結晶〈I〉

チンダル像を探してみたい人のための観察のノウハウ

ではここで、実際に、身近な場所でチンダル像を探す際のポイントを解説します。

浅く、静かな池を探す

池は深いと凍りにくいので、浅い池を探しましょう。加賀の「おとぎの国」の池は深さ18㎝、金沢の鈴木大拙館の「水鏡の庭」は14㎝で、このくらいなら期待できそうです。また、静かに凍った氷がよいので、噴水などで水が動く池は避けましょう。


鈴木大拙館の「水鏡の庭」。表面が凍った上に雪が積もり、そこに水が湧き出てできた氷紋〈S〉

朝まで冷え、翌日晴れる日が狙いめ

加賀でチンダル像を見た日は、冬型がゆるみ、高気圧に覆われた日で、夜から朝にかけて放射冷却でよく冷え(小松の最低気温がマイナス3・8℃)、日中はよく晴れていました。
チンダル像ができるための気象的条件は、高気圧による夜の放射冷却と昼の日照が組合わされること、と言えるでしょう。


加賀でチンダル像を見た日の前夜21時の天気図(気象庁HPより)

観察の時間帯と、撮影のコツ

チンダル像は日光に長くあたるほど大きくなりますが、時間が経つと表面からとけることに注意が必要です。加賀で見たのは11時頃でした。
撮影の際は、影を撮る方法を覚えておきましょう。模様がない一色の板に氷を載せ、チンダル像の影が板に映ったところを撮るとよいでしょう。


緑の野帳に氷を載せ、表紙に写ったチンダル像の影を撮影

あると便利な小道具


偏光板:うすい氷を2枚の偏光板で挟むと、ステンドグラスのように多色に色づいて見えます。氷がいくつかの結晶からなる多結晶のときは、一つの色の範囲が一つの結晶です。
スケール:氷の厚さを測りましょう。撮影のときは被写体に添えるとよいでしょう。
洗濯バサミ:氷を挟んで手で持ち、見えやすい角度を探して観察しましょう。
ルーペ:肉眼でも見えますが、ルーペで確認してみましょう。

この他、氷をなめらかにとかす金属板、氷を切るノコギリ、氷を入れる発泡ケース等もあると便利です。

氷の結晶の状態を見てみよう

チンダル像で見る結晶


左から図①、図②

氷に強い光をあてると、線やチンダル像が現れます。この線は結晶の境目(図①は4つの結晶からなる)です。チンダル像は結晶ごとに微妙に形が違いますが、これは結晶の向きが違うため。チンダル像は六花や丸形の薄い水の膜ですが、結晶の向きが違うとだ円や線になります。但し1つの結晶内ではほぼ同じ形になるので、図②は1つの形で代表させて示しました。このように、チンダル像で結晶の状態がわかります。

偏光板でもわかる結晶の状態


図③

図③は、この氷を2枚の偏光板で挟んで見た時の写真です。結晶の境界や向きで色の違いがでるので、偏光板によっても結晶の状態がわかります。
 氷河の氷をボーリングの機械で筒状に掘り出し、深さによって氷がどう変わるか調べる時などに、偏光板が役に立っています。

中谷宇吉郎雪の科学館

住所 石川県加賀市潮津町イ106
電話番号 0761-75-3323
開館時間 9:00~17:00
休館日 水曜(祝日の場合は開館)
入館料 一般500円
交通 片山津ICから車約15分
※館内ではチンダル像の生成実験が体験できます。

加賀市中央公園

住所 石川県加賀市山田町リ245-2
交通 加賀ICから車約8分
(※2022年補足)チンダル像ができた池は取り壊されましたが、新たに深さ3cmの池が造られました。

鈴木大拙館

住所 石川県金沢市本多町3-4-20
電話番号 076-221-8011
開館時間 9:30~17:00
休館日 月曜(休日の場合はその直後の平日)・年末年始(展示資料の整理等のため臨時休館あり)
入館料 一般310円
交通 金沢駅からバス約14分、本多町バス停から徒歩約5分

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