写真提供○恐竜渓谷ふくい勝山ジオパーク推進協議会(K)、立山黒部ジオパーク協会(T)、白山手取川ジオパーク推進協議会(H)、富山県立山カルデラ砂防博物館(To)、スキージャム勝山/東急リゾートサービス(S)
著者プロフィール
青木 賢人(あおき・たつと)
金沢大学地域創造学類環境共生コース准教授。東京都生まれ。東京学芸大学を卒業後、東京大学大学院で地理学を学びました。平成14年、金沢大学に職を得て現在に至ります。自然環境と人間社会との関係論などを研究し、白山手取川ジオパークの活動にも深く関わっています。
北陸三県のように近接した範囲に複数のジオパークがある地域は日本国内には他にありません。北陸地方は沢山のジオストーリーを楽しめる地域です。一方、一つひとつのジオパークを楽しむだけではなく、北陸地方全体の大地の特性について理解することも大切です。ここでは、北陸のジオパークをまとめるキーワードとして「多様性」「営力」「生活」という3つを挙げてみました。
「多様性」からみた北陸地方のジオパーク
北陸のジオパークの特徴として「目玉商品がないこと」があります。「雲仙島原といえば活火山」「糸魚川といえばフォッサマグナ」「室戸といえば沈み込み」「アポイ岳といえばかんらん岩」というように、それぞれの核となる大地の遺産を持つジオパークが一般的です。これに対して、北陸の各ジオパークはそれがわかりにくくなっています。私は、北陸のジオパークが「多様性の大地」を見せるジオパークだからだと思っています。そして「多様性の大地」は、日本列島の特性でもあるのです。
大陸の縁辺部にあり付加体を持つ日本列島は地質的に非常に多様です。加えて、古い大陸地殻の断片から第四紀の地形や堆積物まで長い歴史を有しています。さらに、活発な地殻変動と火山活動がメリハリのある起伏を創り出します。気候的には、南北に長いことと標高差が大きいこと、そして中緯度に位置して季節風が吹く地域であることから、気温・降水量の地域差も大きくなっています。様々な時間的多様性と空間的多様性が重なって、日本列島はモザイク画のような複雑さを持った大地になりました。これは大陸的な世界とは大きく異なっています。
目玉商品があるジオパークで「要素」を理解することは大切です。一方で、多様で複雑な北陸のジオパークを通して、複雑な日本列島の「構造」を理解することもまた大切です。北陸のジオパークを理解することは、日本列島の自然をそっくりそのまま理解することなのです。
「営力(えいりょく)」からみた北陸地方のジオパーク
営力という言葉は聞きなれないかもしれません。「大地を創り出す力と作用」を意味する専門用語です。
安定陸塊である大陸に位置する国々と異なり、日本列島は地学的な活動が活発な島弧(※とうこ:海溝の陸側に存在する弧状に連なった島々のこと)に位置しています。そのため、プレート運動に伴う活火山や活断層など、地球内部から大地を盛り上げる「内的営力」が強力です。日本のジオパークの多くは、この内的営力をジオストーリーの核においています。一方、北陸のジオパークの大きな特徴は、世界有数の冬季の豪雪と急峻な河川勾配を背景とした崩壊や侵食、河川による土砂の運搬や堆積といった、主に水の力で大地の形を外から変えていく「外的営力」と呼ばれる作用がとても大きいことです。
この外的営力は、渓谷・段丘・扇状地といった地形を創り出し、資源としての水をもたらし、時に災害となって北陸を襲います。そして、それは過去から現在まで、連綿と北陸に影響を与え続けています。
「川ではなく滝」ともいわれる北陸の河川は非常に急峻で、春先には大量の雪解け水が流れます。そのため、北陸の山の侵食速度は世界最大級の値を有していて、外的営力を理解するにはもってこいの場所なのです。北陸のジオパークが発信する外的営力のストーリーと、日本の他のジオパークが発信する内的営力のストーリーが組み合わさって、初めて日本列島の大地を創り出すストーリーとなるのです。
「生活」からみた北陸地方のジオパーク
ジオパークを通した自然の理解の仕方の一つに、「大地が生態系を支え、大地と生態系が人の暮らしと文化を支えるピラミッド構造」があります。そして、それぞれの階層内と階層間のつながりがジオストーリーです。
活発で多様な大地の特性を有する北陸では、それぞれの地域が、それぞれの地域の大地の特性に合わせた生活や文化・風習を作り上げていきました。大地の営みに寄り添い恵みを得て、時には荒ぶる大地をいなしながら、この大地で暮らし続けてきました。「ジオストーリーの中に生活がある」といえるでしょう。そして、それは今も変わらず北陸の各地域の生活に根付いています。本企画にあるように、信仰、農林水産業、工業、衣食住、レジャーや観光まで、今の暮らしの様々な場面で大地の営みを感じることができます。「生活の中にジオストーリーがある」のです。
今回の企画で、北陸のジオパークの面白さを感じ、「大地を見る目」を養っていただけたのではないでしょうか。次は、その目をもって、他の国内のジオパークや海外のジオパークを見に行ってほしいと思います。世界の自然をより楽しむことができることでしょう。そして、もう一度北陸を振り返ってみてください。そこには、今までとは違った北陸があるでしょう。当たり前だと思っていたことが当たり前じゃなかったり、気にもしなかったものが輝いて見えたりするはずです。さぁ、どこのジオパークから行ってみようか?
コラム 北陸のジオパークへ出かけてみませんか
恐竜渓谷ふくい勝山ジオパーク
福井県勝山市の全域をエリアとするジオパークです。国内最大の恐竜化石発掘地を有し、学術的に貴重な恐竜化石が数多く発見されたことで、恐竜たちの暮らしぶりが次第に明らかになってきました。
ジオパークでは、「恐竜はどこにいたのか? 大地が動き、大陸から勝山へ」をテーマに掲げており、恐竜が大陸で生きていた時代から、勝山で恐竜化石として発見されるまでの間の地球活動の遺産や人々の暮らしぶりなどを、訪れる人々が目で見て、肌で感じることができる“地域まるごとジオパーク”となっています。
■問い合わせ
恐竜渓谷ふくい勝山ジオパーク推進協議会
〒911-8501福井県勝山市元町1-1-1(勝山市役所 ジオパークまちづくり課内)
TEL:0779-88-8126
FAX:0779-88-1119
http://www.city.katsuyama.fukui.jp/geopark/
白山手取川ジオパーク
白山から手取川河口にかけての一帯には、海抜0mから2700mに至る起伏に富んだ地形が広がり、手取川という一つの流域を素材として、過去から現在へと続く、水の旅と石の旅(水循環や浸食・運搬・堆積作用)を大きなテーマとしています。流域には、長期的な大地の活動(ジオ)、自然(エコ)と人間(ヒト)との関わりを示す素材が多数存在し、すぐれた自然遺産・文化遺産の宝庫です。エリア全体で、ジオ・エコ・ヒトを結びつける多様なストーリーをちりばめ、幅広い年代で楽しめるジオパークを展開中です。
■問い合わせ
白山手取川ジオパーク推進協議会
〒924-8688 石川県白山市倉光2-1 白山市役所 ジオパーク推進室内
TEL:076-274-9564
FAX:076-274-9546
http://hakusan-geo.main.jp/
立山黒部ジオパーク
富山県東部(富山市以東の9市町村)と富山湾をエリアとするジオパーク。「38億年×高低差4000m! 体感しようダイナミックな時空の物語」がこのジオパークのテーマです。黒部市宇奈月地域の花崗岩中から見つかった日本最古の年代を示すジルコンに遡る歴史と、標高約3000mの立山連峰から水深1000mに達する富山湾に至る空間の広がりに由来しています。エリア内にはラムサール条約湿地や国立公園、複数の県立自然公園があり、自然公園が占める比率が高いのが特徴です。
■問い合わせ
一般社団法人 立山黒部ジオパーク協会
〒930-0856 富山県富山市牛島新町5番5号 タワー111ビル 1階
TEL:076-431-2089
FAX:076-482-3204
http://tatekuro.jp/