文と写真 乾 靖
プロフィール
乾 靖(いぬい やすし)
1962年福井県生まれ。山岳写真家・白山登山の専門家として、白山国立公園を中心とした国や自治体の環境調査などを行っています。また、新聞・テレビ・雑誌などで白山と地域の魅力を伝える活動にも精力的に取り組んでいます。
かつて白山には加賀、越前、美濃からそれぞれ信仰の道が拓かれていました。白山の地図を広げれば分かるように、白山主峰を目指す登山道はほとんどの山ろく集落から拓かれています。白山が古くから人々に親しまれてきたという証です。今回は南端の郡上(ぐじょう)市石徹白(いとしろ)から、白山信仰の歴史に触れながら別山、御前峰(ごぜんがみね)、大汝峰(おおなんじがみね)の白山三山を経由し、北端の白山一里野を目指す延長約35㎞のルートを紹介します。特に紹介したい3つの地点を中心に進めていきましょう。
まず目指すは別山平の花畑
今回のスタート地点には、樹齢1800年といわれる国指定特別天然記念物の「いとしろ大杉」が鎮座しています。石徹白の人々は千年も前から美濃禅定道(みのぜんじょうどう)の整備を代々受け継いできて現在に至っています。このルートの魅力はなんといっても人工物(コンクリートや鉄製のものなど)を一切使わず千年前と同じ状態の道を歩くことができる点です。石徹白衆がこだわり続けている歴史と苦労があちこちに窺えます。銚子ヶ峰まで来ると一ノ峰、二ノ峰、三ノ峰の向こうに別山が見えてきます。山旅はまだ始まったばかりです。
三ノ峰からようやく別山室跡がある別山平に登りきると、咲き乱れるお花畑と大平壁といわれる荒々しい岩壁が迫ってくる第一の絶景ポイントです。花の最盛期でも訪れる人も少なく、花の楽園を満喫できます。
次に目指すは大汝峰からの絶景
さあ、ここから加賀室跡までの標高2,000m地帯は花の楽園が続く広大なエリアです。行く手には、御前峰、大汝峰、七倉山、四塚山が果てしなく遠くに肩を並べています。南竜までの稜線歩きは先を急がずゆったりと楽しんでください。
南竜山荘からはトンビ岩コースで室堂に最短距離で向かいます。御前峰からお池めぐりをしながらいよいよ大汝峰への登りに取付きます。山頂からは主峰部の周辺に点在する噴火口跡の火口湖を見下ろすことができ、白山が火山であることを再認識させる地形が広がっています。
ここからが加賀禅定道の始まりです。行き交う人も急になくなり、またひっそりとした山旅の再開です。
最後に待っている絶景
最後に目指すは加賀室跡周辺から清浄ヶ原へと続く雄大な眺めと、その広大なエリアの水を集め、たゆみなく流れ落ちる百四丈滝の絶景です。
四塚山から長坂と呼ばれる本当に長い坂を下り始めると、広大な清浄ヶ原が眼下に広がってきます。白山の秘境の一つで、今回の最後の絶景ポイントである加賀室跡周辺まで優しい山並みが続いています。加賀室跡から少し下った丸石谷側に百四丈滝と清浄ヶ原と四塚山の大パノラマを望むことができる展望台があります。ゴーッと流れ落ちる瀑音が丸石谷に響き渡っています。
今回紹介したコースに限らず、白山にはまだまだ知られざる絶景が眠っています。さあ白山縦走でそんな絶景探訪の旅を始めてみましょう!
コラム1「美濃禅定道と加賀禅定道~意外と多い二つに共通する呼称や伝説~」
コラム2 白山に登るということ
今回白山を南から北へ縦走するコースを紹介したのには訳があります。普段私は知らない所を歩くとき、北上するコースを選びます(北半球の場合)。それは、日中太陽を背中にして歩いた方が、常に順光で風景を眺めることができて、シャッターチャンスを逃さないからです(顔の日焼けが少ないのもあります)。
全ての風景は一期一会で、再び同じ風景に出会えることはありません。旅を急がず、じっくりと目の前の風景をかみしめる山旅をおすすめします。
もうひとつ、これはお願いですが、白山の山中に幕営地は南竜野営場しかありません。代わりに避難小屋が各登山道に設置されていますが、近年利用者のマナーが低下しています。ごみの持ち帰り、退出の際の清掃、戸締りを徹底してほしいと思います。
※今回紹介したルートは非常に長いルートで水場があまりありません。常に水があるのは、神鳩ノ宮避難小屋、南竜手前の赤谷、南竜、室堂、油池(しばらく沢を下りる)となります。