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味覚で春を感じる野草 ヨモギ

萌え出たばかりのヨモギ。草餅・草団子や菜飯には、このころがよいでしょう。

文と写真 栂 典雅
写真 小幡 英典

プロフィール

栂 典雅(とが のりまさ)

植物との出会いは、幼い頃の家の庭。以来、各種栽培から山菜・きのこ、山林跋渉、高山植物まで広く植物に親しんでいます。
著書に『白山*花ガイド』(橋本確文堂)、『山と高原地図・白山』(共著・昭文社)など。

【蓬】よもぎ
キク科ヨモギ属
学名:Artemisia princeps

ヨモギは、空き地や農地周辺、林道・山道など平野から山地にかけて広く見られ、昔からさまざまに利用されてきた、たいへん馴染み深い野草です。

多年草であり、晩秋に地上部は枯れますが、春になると地下茎から盛んに芽を出し、しばしば一面のヨモギ原になります。そんなことから、ヨモギの名は「四方草」あるいは「善萌草」が語源(※1)とされています。夏から秋、高さは1mほどになり、目立たない小さな筒形の花を総状につけます。種子は微小で、容易に風で飛びます。やせ地にも生え、地下茎・種子の双方で殖える繁殖力の強い植物で、農地や庭では駆除に手こずる害草ともなります。

初夏のころのヨモギ。先端部(若い葉)は、天ぷらや乾燥して野草茶などに利用できます。

魔除けと薬効

ヨモギは、5月5日の端午の節句に菖蒲湯として、ショウブとともに浴槽に入れることはよく知られています。ぼくが子どもの頃には、それに加えてショウブの鉢巻にヨモギをさして寝たものです。これらの風習は、ショウブやヨモギの強い香りで魔除け、厄払いをしたものとされますが、薬効と強い生命力にあやかって健康を願ったものでもあるのでしょう。ちなみに、なぜ端午の節句かというと、5月は旧暦では梅雨どきであり、体調を崩しやすい要注意の「忌み月」とされていたからで、中国伝来の習俗だそうです。

漢方では、花がつく前のヨモギを乾燥させたものを「艾葉(がいよう)」といいます。これを煎じたものは、胆汁分泌や食欲増進、腹痛、下痢などに薬効があり、血液浄化や免疫力強化などの作用もあるといいます。民間では、虫刺されや切り傷に葉をもんで貼るほか、痔や湿疹、腰痛には、煮出した汁を塗布あるいは浴用とします。また、学名のArtemisia(アルテミシア)がギリシア神話の女神アルテミスに由来するのは、同属の植物が女性の疾病に効能があるからとされ、近年、韓国伝統の「よもぎ蒸し」もあると聞きます。さらに、お灸に使う「もぐさ(艾)」は、ヨモギの葉の裏の白毛から作るなど、なにかと健康に関係深い植物です。

ヨモギの花(写真:小幡)

葉の裏(写真:小幡)

ヨモギの花は先端が開くと褐色を帯びます。「もぐさ」は、葉を乾燥させて砕き、葉の裏につく白い毛だけを取り出したものです。なお、白い玉は、タマバエの一種の「虫こぶ」で、中に幼虫が潜んでいます。

身近な山菜

ヨモギといえば、「もちぐさ」の別名があるとおり、若芽を搗き込んだ草餅や草団子(※2)を思い浮かべる人が多いことでしょう。まさに春を感じさせる風味です。また、天ぷらをはじめ、茹でた若葉を水にさらしてアクを抜き、ごま和えや油炒め、汁物などに利用するとよいです。

果実酒を作る要領で「よもぎ酒」もできます。ヨモギの酒といえば、蛇足ながら、強烈な苦味で知られる「アブサン」が有名です。ゴッホやピカソなどの芸術家が愛飲したとされ、原料のニガヨモギに含まれる成分が幻覚や中毒を引き起こす(※3)として、一時は製造禁止になったといういわくつきの酒なのです。

どこにでもあるヨモギは、採取が容易な反面、汚物などに汚染されていないか注意が必要です。見分け方は、切れ込む葉と白い毛が特徴ですが、なにより独特の香りが決め手になります。なお、深山には、よく似て大型のオオヨモギ(ヤマヨモギ)があり、ヨモギにある葉の付け根の小葉(仮托葉)がないことで区別しますが、同様に利用できます。


草だんご


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