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花に誘われてやってくる ミツバチとその仲間たち

アザミの花で吸蜜中のトラマルハナバチ。体中に花粉が着き、後足には花粉団子を付けています。

文と写真 根来 尚

プロフィール

根来 尚(ねごろ ひさし)

昭和26年、大阪府和泉市生まれ。富山市科学博物館 前館長。花に来る虫や雪の上の虫を調べています。

興味深いミツバチの社会

茶色の草原が緑になって、オオイヌノフグリやタンポポ、はたまたネコヤナギ等の花が咲き出すと、太陽の光に誘われるように虫の羽音が聞こえてきます。最も早く花にやってくるのは成虫で越冬したハナアブ類で、気温が10℃を超えるようになると早々に現れます。次いで、賑やかな羽音を出しながらミツバチがやってきます。ミツバチは気温が12~13℃ほどになると、長い冬を耐えて過ごした巣から飛び出し、蜜や花粉を求めて花を訪れ始めます。

ヤナギの花に来たクロハナアブの一種

ミツバチには、養蜂に使用されている「セイヨウミツバチ」と日本在来の「ニホンミツバチ」の2種がいます。たいへん似ているので見分けるのは少々難しいのですが、腹部の色で見当がつきます。腹部の基部が黄色っぽく見えるのが「セイヨウ」で、腹部全体が黒っぽいのが「ニホン」です。正確には後ろばねの脈を確認する必要があります。

タンポポに来たセイヨウミツバチ。セイヨウミツバチの腹部は橙色味が強い

アキグミの花に来たニホンミツバチ

セイヨウミツバチの後ばね

ニホンミツバチの後ばね

生活の様子は両種とも同様で、木の洞などの閉鎖的空間に(セイヨウなら、もちろん養蜂用の巣箱の中)六角形の部屋がたくさんある巣板をかけ、一頭の女王蜂とたくさんの働き蜂と少々の雄蜂がその上で暮らしています。女王が巣の外に出るのは交尾の時と巣分かれ(分蜂と言う)の時のみで、いつもは巣の中で産卵に専念しています。雄蜂も巣外に出るのは交尾の時のみで、花上や巣内で一生懸命働いているのは働き蜂ばかりです。女王蜂も雄蜂も働き蜂がいなければ餌も摂れず、これらの三者がセットでいなければミツバチの生活が成り立ちません。

お墓に営巣したニホンミツバチ

1頭で生きるハナバチ類

春の花には、ミツバチ同様、花蜜と花粉を餌とし花によって生活を成り立たせているハナバチ(ミツバチもハナバチ類に含まれますが、ここではミツバチ以外のハナバチ類をハナバチと呼んでおきます)もやってきます。ハナバチにはたくさんの種類がいて、大きくて目立つ種には、藤の花などへの訪花がよくみられるクマバチ、アザミがあると必ずやってくるトラマルハナバチがいますが、小形の黒く目立たないコハナバチ類やヒメハナバチ類の方が種数・個体数共に多いです。野の花の多くはハナバチに花粉媒介を託しています。ハルジオンやヒメジョオン花上にはこれらの仲間が普通にみられますが、一般には、これらは「ハエ」の類と思われていることが多いようです。

これらのハナバチは、ミツバチとは違い、基本的に一頭でも生活ができ、一頭ずつの独立性が高いです。コハナバチ類やヒメハナバチ類は、土中に小穴を掘り、小さな部屋をこしらえ巣としますが、営巣を常に単独で行うものから、ある時期集団で行うものなど種によってさまざまです。しかし、ミツバチとは違い、春には一頭で営巣を始めるのには違いがありません。また、幼虫の餌用に花粉塊を作るが、蜂蜜は蓄えません。これらのハナバチの生活を調べると、集団でなければ成り立たないミツバチの生活に至る道が見えてきます。

タンポポに来たコハナバチの一種。頭を花に突っ込んで花蜜を吸い、体中に花粉を付けて次の花に飛んでいきます。

アベリアから盗蜜中のクマバチ

ミツバチの分蜂と利用

初夏は花も多く、それに来るハナバチの種類・個体数も最も多くなります。そしてミツバチの分蜂の季節でもあります。突然蜂の大群が現れ、庭木の枝に集まっていると騒ぎになるのがそれです。春から産卵・育児を急ピッチで行い働き蜂の増えた群れは、新しい女王蜂の誕生を期に、元の女王蜂とだいたい半数の働き蜂がまとまって新しい営巣場所を探して巣から飛び出し、新営巣場所が決まるまで一時的に庭木の枝等に集まりますが、一時的なのでそう騒がなくてもよいでしょう。最近、街中でも分蜂群がみられ、ニホンミツバチが増えているらしいとの話もあります。もともと、どのくらいいたのか分からないので何とも言えませんが、一時期たいへん少なくなっていたのは確かなので、最近少し増えたとしても、その昔(もう40年ほども前のこと)よりは少ないのは確かでしょう。

よい蜜源のレンゲ畑、ナタネ畑が減っており、ニセアカシアも外来生物ということで伐採されることもあると聞きます。加えて、スズメバチ対策やクマ対策など、また農薬、病原菌等原因がさまざまに推定されている蜂群崩壊も、日本でみられることがあるらしく、日本の養蜂もなかなかたいへんなようです。蜂蜜も外国からの輸入が圧倒的に多く、国内の生産は減少しています。ミツバチの利用は、蜂蜜だけではなく、蜜蝋やローヤルゼリー、花粉、プロポリスの利用など多様で、また、このような生産物のみでなく、ハウス栽培のイチゴやメロン、また、リンゴやモモなどの花粉媒介にミツバチそのものが利用されています。ニホンミツバチは、セイヨウミツバチより飼育が少々難しく、蜂蜜生産も少ないので養蜂に使用されることは少ないのですが、それでもニホンの良いところがあると思われ、伝統的な方法で飼育が行われている所もあります。今後、もっと在来のニホンミツバチの利用が見直されてもよいのではないでしょうか。

味覚で春を感じる野草 ヨモギ

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