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滝ウォッチングのすすめ

文と写真=吉澤康暢(元福井市自然史博物館特別館長)

吉澤 康暢(よしざわ やすのぶ)
平成17年(2005)に福井市自然史博物館館長に就任。平成31年(2019)3月に退職。専門は地質学で、北陸三県の地質的に珍しいスポットを巡り歩く。季刊「自然人」で「悠久の大地の物語」を連載していた。

※肩書は令和3年(2021)6月現在のものです

人間の心を強く刺激する滝

日本は雪や雨が多く、豊かな森や急峻な山岳を有するため、数多くの滝が存在します。滝は日本の自然環境の象徴的存在でもあります。渓谷を遡ると、その源流にはダイナミックな滝がよく見られます。圧倒的な水量と叩きつけるような水の勢い、轟く水音、流水を幾段にも落下させ水しぶきを上げる滝。コバルトブルーに映える大小の釜や淵。滝水が高所から絶え間なく落下する姿は、ドラマチックで人間の心を強く刺激します。それは、いのちの根源である水への畏敬の念や神秘さに心が打たれるからでしょうか。たちはだかる巨大な岩壁や限りなく流れ落ちる流水を見ていると、何万年という侵食や崩壊により形成された悠久の大地の営みを感じることができます。

また、流水によって磨かれた黒い岩肌は、輝く水流とのハーモニーで美しい芸術作品を創り出しています。滝は地球の自然のすばらしさを目の当たりにし、肌で感じることができる場所でもあります。

滝を気軽に楽しむ方法のひとつに、滝の“流水ウォッチング”があります。滝周辺の岩盤などに視点を置いて滝水を見ると、スローシャッターで撮影した写真のように、連続した白い光の帯となって見えます。ところが、流れ落ちる水の一点を見つめ、その落下する速さに同期させて目を動かすと、水がかたまりとなって落下する不思議な世界が見えてきます。また、滝壺に水しぶきが上がっている場合、太陽を背にして眺めると水しぶきの水滴に光が屈折して、美しい虹が現れます。このような光景は、多くの人が目にした経験があるでしょう。

他にも滝を本格的に楽しむ方法には渓谷や峡谷を遡行する沢登りがありますが、これは簡単ではありません。十分な装備や技術、経験が必要です。

滝の成因を知る面白さ

滝は、まだ平衡を保っていない川が平衡状態になろうとする、川自身の発達の過程でできます。その成因は多種多様で、複雑な要素を含んでいます。

以下では北陸にある主な滝の成因について考えてみます。ぜひ、実際に滝を訪ね、その成因を考えたり、その痕跡を探してみたりしてください。そうすれば、滝を見る楽しみがさらに増えるはずです。

1. 侵食の速さや侵食量が大きく急崖をつくる滝 -(例)称名滝


称名滝(富山県立山町)

称名川の本流沿いには、侵食に弱い無層理に近い火砕流堆積物(溶結凝灰岩)が400~500mもの厚さで分布しています。これらの堆積物は、滝を流れ落ちる毎秒100tに達する水量により、谷底の基盤岩まで深く侵食され続けています。滝の位置は川の遷移点(遷急点または遷緩点)にあたりますが、これが上流へと速いスピードで侵食と崩壊を繰り返しながら進行しています。称名滝より下流では、最大比高500mに達する絶壁に囲まれた幅1000~1200mの広い谷地形が形成されています。その最前線となる称名滝が懸かる侵食崖は、上空から眺めると大きなカーブを描き、巨大な馬蹄形状の地形になっています。

2. 侵食の速さや侵食量が小さく緩斜面をつくる滝 -(例)姥ヶ滝


姥ヶ滝(うばがたき)(石川県白山市)

蛇谷(じゃだに)の支流に懸かる姥ヶ滝は、侵食に弱い岩質の火砕流堆積物(溶結凝灰岩)でできています。滝の水が流れ落ちる滑らかな一枚岩は、ウォータースライダーのような緩斜面を形成しています。山地の隆起量とも関係があると思われますが、支流であるため侵食がゆるやかに進んだものと考えられます。また、側方侵食も進んでおり、滝面はハーフパイプ状の地形になっています。蛇谷本流との合流点付近は段差になり小滝が形成されています。この小滝の成因は3.によるものです。

3. 本流の侵食量が大きい枝谷の合流点にできる滝 -(例)姥ヶ滝、岩底の滝、しりたか滝、龍双ヶ滝


岩底(かまそこ)の滝(石川県白山市)

蛇谷の本流とその枝谷はともに侵食に弱い岩質の火砕流堆積物(溶結凝灰岩)からできていますが、本流を流れる水量が多く、枝谷の侵食量に比べて大きいと、合流点が垂直に近い段差となり、滝が形成されます。合流点付近に溶岩などの硬い岩質の層が分布している場合、さらに大きな滝が形成されることがあります。

4. 流路の途中に硬いが崩れやすい岩層がある場合にできる滝 -(例)ふくべの大滝、弁ヶ滝


ふくべの大滝(石川県白山市)

川の下刻(かこく)作用により、遷移点が川の上流へと進んでいきます。厚い溶岩や凝灰角礫岩など硬い岩質の層が流路の途中にある場合、侵食にともなって崩壊が進み、規模の大きな滝が形成されます。溶岩層には通常、柱状節理などの規則的な収縮割れ目が発達しています。この割れ目に沿って侵食が進み、崩れやすい急崖を作ります。凝灰角礫岩や火山角礫岩などは、大小様々な火山角礫が硬く抵抗性があります。しかし、角礫の周囲を埋めているのは火山灰なので、崩れやすい性質を持っているのです。

※1.~4.のような成因以外に、山地の隆起量や大小様々な断層破砕帯などの弱線との関連性もあります。

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