【石川県】
井田不動滝(中能登町)、姥ヶ滝(白山市)
二体の不動尊に守られ、古くは石動山天平寺の行場としても尊ばれた
井田不動滝(いだふどうだき)【石川県中能登町】
文=山本 明子
年に一度の「滝びらき」で清められる滝つぼ
不動滝は、石動山(せきどうさん)系三尾山の急崖にかかる落差20mの滝で、約1300年前、熊野権現のお告げを受けた泰澄によって開かれたと伝えられています。中世には、360坊3000人の規模を誇った石動山天平寺(てんぴょうじ)の修験者らに尊ばれる行場でもありました。現在も、水行の場を求める人が全国から訪れます。
滝のそばには、北陸不動尊霊場第十一番札所でもある不動尊を祀った不動堂が立ち、滝つぼ横の岩をくりぬいた祠にも、石造りの不動尊が祀られています。
「不動滝」の名を持つ滝は北陸にも多数存在しますが、滝と不動尊の関係について、不動滝を奥の院とする熊野山圓光寺(えんこうじ)住職の長谷契俊(はせけいしゅん)さんにお話を伺いました。
「密教において不動尊は、行者に付き従ってその修行を助け、悪いものから守る存在です。そのため、行場として使われている滝には不動尊が祀られるのです」(長谷住職)
井田不動滝では、毎年7月5日に「滝びらき」があり、行者が水行で落とした業を、滝つぼから昇天させるための法要が、近郷の真言宗の僧侶によって行われます。当日は、注連縄(しめなわ)を張った滝つぼに、昆布や野菜など山海の幸が供物として投げ入れられ、祈祷が行われた後、白装束の僧侶が滝に打たれながら護身法(ごしんぼう)を結び般若心経を唱えて周囲を清めます。
こうして清められた滝には、一般の人も涼を求めて気軽に集まり、地元では「井田のお滝」とも呼ばれて親しまれています。近年、かつて石動山天平寺の修験者たちが水行の際に通った3kmあまりの修験道が遊歩道として整備され、滝から石動山までのハイキングも楽しめるようになっています。
※写真はすべて圓光寺よりお借りしたものです。
アクセスとメモ
のと里山海道千里浜ICより車で約20分で圓光寺駐車場。駐車場からは徒歩約5分。圓光寺庭園では、町の天然記念物に指定されているキリシマツツジが5月上旬に見頃を迎える。
お問い合わせ
中能登町企画課 TEL:0767-74-2806
白山白川郷ホワイトロードの人気スポット。絶景と天然温泉が同時に楽しめる
姥ヶ滝(うばがたき)【石川県白山市】
文と写真=平田 昭生(白山林道石川管理事務所 所長)
天然掛け流しの露天風呂から名瀑を眺める贅沢
石川県白山市と岐阜県白川村を結ぶ自動車専用道路「白山白川郷ホワイトロード」沿線には有名な「ふくべの大滝」(落差86m)をはじめ、「しりたか滝」や「岩底(かまそこ)の滝」などそれぞれ姿や趣きの異なる七つの大きな滝があります。中でも「姥ヶ滝」(落差76m)は、新緑の中、豪快な水音と姿を見せる雪解けの春、美しい紅葉の中、岩肌一面が白い流れで覆われる秋と、その季節や水量によりまったく異なる姿を見せる美しい滝です。褐色の岩肌を幾筋もの細く白い流れが落ちる様が、まるで老婆の振り乱した白髪のように見えるところからその名がついたといわれ、平成2年(1990)には「日本の滝百選」にも選ばれている名瀑です。
また、滝の対岸には周辺の川岸から自噴する温泉を集めた露天風呂「親谷(おやだに)の湯」があります。今でこそ車で誰もが訪れることができ、多くの観光客が訪れる人気スポットのこの滝と温泉も、かつては地元の猟師でさえ容易に訪れることのできない秘境でした。それでも「特に皮膚病によく効く」という評判を聞きつけ、遠く飛騨の国(今の岐阜県)からも難病に苦しむ人々が険しい山道や峠を越えて湯治に訪れたといわれています。
混浴のため観光客の多い日中はできれば水着着用が望ましいですが、人の少ない早朝には素っ裸で楽しむことができるらしく、これを目当てに朝早くから開門を待つ車も見かけ、その中にはカップルも……。絶景の滝と露天風呂を「貸し切り」で楽しむ爽快感はかなりやみつきになるらしく、密かにリピーターが多いというのも頷けます。
※白山白川郷ホワイトロードは、例年6月中旬に開通予定ですが、天候などにより変更になる場合があります。
アクセスとメモ
姥ヶ滝へは白山白川郷ホワイトロード中宮料金所から車で約10分の蛇谷園地駐車場に車を停め、遊歩道を約20分川沿いまで歩く。蛇谷園地からもう少し先の道路脇に車を停めれば、下方の谷沿いにその姿を眺めることもできる。
お問い合わせ
白山林道石川管理事務所 TEL:076-256-7341