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冬の七尾湾で獲れる3色の宝石「ナマコ」

左からアカナマコ(赤~赤褐色)、クロナマコ(黒色)、アオナマコ(青緑色)〈O〉

文とイラスト=仙北屋 圭◎石川県水産総合センター
写真提供=奥野真弓◎七尾市〈O〉、石川県水産総合センター〈I〉、自然人編集部〈S〉

ヒトデやウニと同じ棘皮(きょくひ)動物

ナマコは海産で、ごく浅い波打ち際から6,000mを超える深海、極地から熱帯まで広く生息しています。南の海では色鮮やかなサンゴや熱帯魚が印象的ですが、海中の私はナマコに目を奪われました。4m以上のイカリナマコや、全身とげとげの疣足(いぼあし)に覆われたバイカナマコなど、想像を絶するナマコがごろごろいることに驚きました。

ナマコはヒトデやウニと同じ仲間で、「棘皮動物門」に分類されます。棘皮動物の特徴は「五放射相称」という非常にユニークな体の構造にあります。ヒトデは足が5本、ウニでは歩帯(ほたい)と間歩帯(かんほたい)それぞれ5つの部位があります。ナマコでは頭から肛門に向かって5列の歩帯をもち、背側の2列には円錐形の疣足、腹側の3列には管足が並びます。さらに内臓を収める体腔内壁の5本の縦走筋により、五角柱を構成しています【下イラスト】。平らなヒトデが丸く膨らんでウニになり、ウニが上に伸びて、ごろんと転がるとナマコになる、と考えるとイメージしやすいでしょう。


棘皮動物の基本構造。実際の色とは異なります

浮遊生活を経て底生生活へ

マナマコは秋から春にかけて、海底の有機物(デトリタス)や植物プランクトンを活発に摂食し、栄養を蓄え、4~6月に産卵します。そして夏になり水温が25℃を超えると泥の中や岩場に隠れ、秋まで「夏眠」します。

ナマコは体外受精で子孫を残します。数年前に珠洲の外浦で見た産卵行動は、夕暮れ時の薄暗い海中で、無数のナマコが岩の上で、鎌首をもたげるように頭を持ち上げ波に揺られていました。その様子はとても不思議な光景でした。

ナマコの幼生は受精からおよそ1カ月間、海中を漂う浮遊生活を送ります。その後ナマコに変態し、底生生活へ移行します【下写真】。


1.アウリクラリア幼生(「耳たぶのようなものたち」の意味。)、2.ドリオクラリア幼生(「樽のようなものたち」の意味。)、3.ペンタクチュラ幼生、4.変態直後の稚ナマコ〈I〉

柔らかいアオ、高値のアカ、希少なクロ

日本でとれるマナマコは、体色によりアカナマコ、アオナマコ、クロナマコの3つに分けられます【本記事トップ写真】。七尾湾ではナマコは主に「桁(けた)びき」で漁獲されます【下写真】。アカは岩礁域に生息し、刺激によって簡単に丸く縮まり固い食感です。一方、アオとクロは砂泥域に生息し、アオはアカに比べて伸縮性は小さく身は柔らかいという特徴があります。


桁びきでとれたナマコ〈S〉

一般的にアカナマコの方が高値ですが、七尾湾産のアオナマコは味、香りに優れ、市場から高い評価を得ています。一方のクロナマコは皮がはがれやすく、生息数が少ないためほとんど漁獲されていません。これらは同一種内の色彩変異とされてきましたが、最近のDNAや、生理・生態的な研究によって、アカナマコと、アオナマコ・クロナマコの2つのグループに区別でき、分類について再検討する必要があるようです。

熱燗の肴にも最高のコノワタ

七尾湾のナマコ漁は、11月6日~翌年3月31日まで行われます。漁獲されたナマコは泥を吐き出させた後、腹に小さな穴をあけ内臓を取り出し、箸などで消化管内の泥をきれいに取り除きます(この作業が大変!【下写真】)。消化管はコノワタ、呼吸器官である呼吸樹はニバンと呼ばれ、特に卵巣は干しクチコに加工し珍重されます。内臓を取った身は生鮮出荷やキンコ(乾燥ナマコ)に加工します。


品質保持のため、暖房のない真冬の作業場で地道に行われるコノワタ作り〈I〉

新鮮な生のコノワタは他にはない風味と香りで、熱燗の肴に最高です。まただし汁に放し、塩で味を調えていただくのも絶品。産地に住んでいる幸せを感じられる時期が近付いてきました。


コノワタ(消化管、左)、ニバン(呼吸樹、中)、クチコ(生殖巣、右)。3点とも〈O〉

参考

本川達雄、今岡亨、楚山いさむ 2003 ナマコガイドブック、阪急コミュニケーションズ

倉持卓司、長沼毅 2010 相模湾産マナマコ属の分類学的再検討・生物圏科学 49: 49-54

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